あけの星幼稚園について モンテッソーリ教育~保護者様の声~

181匹のわんちゃん

娘が年中の時、我が家で「わんちゃん」と呼んでいたお仕事にとても夢中になった時期がありました。

色画用紙のかわいいダックスフントの胴体部分にある切り込みにリボンを通していくお仕事です。確か年中の2学期が始まってすぐの頃、このわんちゃんをたくさんお仕事ファイルに入れて持ち帰ってきました。何匹入っていたかは覚えていませんが、20 匹くらいだったでしょうか?母親の私は、娘が入園した時からお仕事の教材作りのボランティアをしていて、最初に作ったこのわんちゃんをよく覚えていたので、「娘もこのお仕事をやる時が来たのだなぁ」と感慨深く思ったことを覚えています。

同時に、このわんちゃんは他の教材作りに比べて工程が多く、当時乳児を抱え夜間しか作業できなかった私は、初めての教材作りに緊張しながら、そして授乳などでしばしば中断されながら、睡眠を削って何日もかけて作ったという苦心の作だったので、「あの時の私の汗と涙の結晶が、こんな一瞬のうちに消費されていくの!?」と、ほんのちょっと複雑な思いがよぎったのも正直なところです。

それでも、娘がこんなにたくさんのお仕事を持ち帰ってきたのは初めてのことで、「うわぁ、上手にたくさん作ったねぇ!このわんちゃんかわいいよねぇ!」などと言ったのではないかと思います。後で娘に聞いたところによると、元々このわんちゃんのお仕事が面白そうでやってみたいと思っていたのに、人気のためすぐになくなってしまい、ずっと機会をうかがっていたのだとか。

そして次の週も同じくらい、もしかしたらそれ以上のわんちゃんが我が家にやってきました。それまで娘が持ち帰ったお仕事や作品はなるべく部屋に飾るようにしていたのですが、さすがにものすごい勢いで増殖するこのわんちゃん達をどうしたものか、私も考えあぐねていました。

そんな時、いつものように娘が父親と遊んでいる中で、このわんちゃん達をああして、こうして…と自宅の階段付近でなにやら盛り上がる声が聞こえてきました。娘の父親、つまり私の夫は大の子ども好きなのですが、とても遊び心にあふれた、少々型破りな人なので、これまでにも数々のびっくりエピソードがあります。私は、その時も一抹の不安を覚えながらも、多分下の子の世話か家事か何かで手が離せなかったので、「ああもう、なるようになれ…」とあきらめる他ありませんでした。

ほどなくして 2 人が興奮して「ママー!見て見てー!」と報告してきました。ドキドキしながら見に行ってみれば、階段の下から上に向かって、隊列を組んで闊歩するわんちゃん達の壮観なこと…!

その日はとても残暑の厳しい日だったので、当時我が家の定番デザートになりつつあったかき氷をこのわんちゃん達も食べたくなり、2 階の寝室にあるかき氷屋さんに向かって行進している、というストーリーが父娘の中ででき上がっていたようでした。

ところが、わんちゃんが足りない!残念ながら、この日わんちゃん達はお店までたどり着けませんでした。こうして、娘はその後も次々と大量のわんちゃんを持ち帰るようになりました。そしてわんちゃん達は寝室の壁をぐるりと行進し、めでたくかき氷屋さんにゴールしたようです。

しかし、実際のところ、決して広くはない我が家、わんちゃん達がかき氷屋さんに到達するのにそれほど時間はかかりませんでした。物語は終結を迎えたというのに娘のお仕事は止まらず、毎週毎週わんちゃん達は大勢やってきて…。そのたびに私は「わぁ!わんちゃんまた来たぁ♪」と声を弾ませながらも、徐々に不安も芽生えてきました。さすがに作りすぎじゃない?いくらモンテッソーリの幼稚園とは言え、娘が一人で園のわんちゃんを使い果たしてしまっていいのだろうか?先生方はどう思っていらっしゃるのだろう…。連絡帳を書いたついでにそれとなく書いてみたら、とても温かく見守ってくださっている様子。

他の子はどうなのかな?バス停で他のお母さんに話してみたら、「うーん、モンテッソーリだねぇ!」とにっこり。これでいいということかな…?というわけで、こうしたことをとことんやれる環境を保証してくださる園にただただ感謝しながら、引き続き、押し寄せるわんちゃん達を迎え入れました。そして、181 匹目を境にパタッとやってこなくなりました。どうやら娘は満足したようで、次のお仕事を始めたようです。だんだん下の弟が大きくなって興味がはっきりしてきたので、弟にあげたら喜びそうなものを選んでやったり、憧れていた編み物などに挑戦したりしているようでした。

元々、モンテッソーリ教育についてきちんと勉強していたわけではなく、なんとなく直感的に娘に合っている気がするという理由でモンテッソーリの幼稚園を選んだ我が家です。ですから、「これって恵先生のワークショップで聞いた『敏感期』ということなのかな?」とは思いながらも、この現象が専門的にはどういうことなのかよくわかっていませんでしたし、特別な声かけをしたわけでもないと思います。

しかし、かき氷の物語というきっかけがあったにせよ、子どもが選んだお仕事がその時一番やりたいことにぴったりとマッチしたとき、このようなことが起こりうるということを目の当たりにできたのは感動的でした。

おそらく周りの音など全く耳に入らず全身全霊を傾け、最後までやり切って自分で終わりを決めたという姿は、想像するだけで清々しく、また神秘的にすら感じたほどです。娘もこの経験によって、好きなものを好きなだけ作れるという安心感の中、ひたすらリボンを通すという作業を楽しみながら集中力を育み、大作を作り上げた達成感は大きな自信へとつながったことと思います。

家庭でも普段からこうしたことをさせてやりたいのですが、どうしても 3 歳下のチビっ子ギャングがいたり、私が就寝時間を心配してしまったりして、なかなかできないのが歯がゆいところです。思う存分やらせてくださる幼稚園には、家族一同心から感謝しております。

またこの度、この経験を文章にまとめることで、3 年間の幼稚園生活の中で現れたほんの一瞬の出来事を、すでに埋もれかけていたところから掘り起こすことができました。さらに、日ごろの子ども達への関わり方を見つめ直すきっかけにもなりました。

このような機会を与えてくださった年中時の担任の高野睦子先生、後押ししてくださったというモンテッソーリ教育の馬木恵先生、園長の竹石素子先生に深くお礼申し上げます。どうもありがとうございました。

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